Last updated at 2022/06/01
Initially created at 2022/05/04

web3 だめそう

いまのところ web3 はだめそうだと思っている。

個人や企業が web3 に向かうのは彼らの自由だけど、自由民主党までもが、デジタル・ニッポン 2022と題して、

すなわち、巨大なプラットフォーマーが世界を席巻してきた Web2.0 の世界から、ブロックチェーン技術9に裏打ちされた NFT(非代替性トークン)等のイノベーションの到来によって、個と個がつながる分散化した Web3.0(ウェブ・スリー)の世界への移行が進んでいる。

とか

Web3.0 や NFT を新しい資本主義の成長の柱に位置付け、Web3.0 担当大臣を置き、経済政策の推進、諸外国との連携の司令塔とすべき。省庁横断の相談窓口を置くべ き

なんてうたっているのをみると、web3 をだめだと思っている、私もふくめた専門職の人々は、きちんとだめさを説明する責務を果たせていなかったと思う。

私が間違っていて Andreessen Horowitz が正しくて、web3 がうまくいく可能性はある。あるけれど「移行が進んでいる」は2022年の現状認識として間違っているし「成長の柱に位置付ける」のは、リスクの高すぎる賭けで、有権者として同意できない。

面白いところ

世界に何個か、誰でも参加できる追記のみのデータベースがあって、それぞれが一応バラバラにならずに (パラレルワールドに勝ち負けがちゃんとあるかたちで) 進んでいるのはすごい。

ウォレット間の金額の移動、みたいな情報が全世界に公開されているのも面白い。

だめそうなところ

人のウォレットをのぞくのは面白いけれど、自分のウォレットは公開したくない。ウォレットのアドレスに個人情報は紐付けなくても良いけれど、あるウォレットのアドレスを知ることが、そのウォレットのすべてのトランザクションを見ることになってしまうのは、用途を制限しすぎる。

データが消せないのは、嫌がらせや違法なデータへの耐性がない。現在のインターネットでもなにかを消すのは難しいけれど、それをさらに難しくするのが良いことだとは、例えばリベンジポルノとかを考えると、良いことではない。

検閲されない場所は、モデレーションがない場所でもある。

暴力団員であるとか、ロシアとの繋がりであるとか、民主的に選出された代表が、だれかを金融システムから締め出そうとしたときに、それを止めるのは本当に良いことなんだろうか。良いことだとして、それは法的な手続きを得ずに実行されるべきなんだろうか。

ブロックチェーンのトレードオフ

参加者全員がみとめてる、企業や特定の団体に所有されないデータベースがあって、その上に複数の会社や個人がいろいろな、現金のからむような取引を記録していることは、新しいし面白い。2022年に流行しているメタバースと、NFT をつなげようとする人々は、こういう「私は X を所有しています」という情報が、企業や特定の団体に帰属していない、という点に期待しているのだと思う。

ただ、いまのブロックチェーンは、現代のコンピュータに慣れ親しんだ人々にとっては、ものすごく遅く、効率の低い仕組みである。世の中のいろいろな仕組みとおなじように、ここにはトレードオフがある。ブロックチェーンは、中央でコントロールする主体もいない、信頼できないノードが参加しても破綻しない、分散データベースをつくるために、効率を犠牲にしている。

わたしは、このトレードオフに納得できる人は少ないと思う。もちろん、いまブロックチェーンに参加しているひとはそれに納得している (あるいは、たんなる投資の対象としてみている) のでゼロではないけれど、多数になることはないだろうと思っている。

暗号通貨

流量をコントロールできないエンティティを「通貨」とするのは、中央銀行が通貨の 流量をどうこうすることの否定に感じる。私の感覚では、同じように「採掘する」石油や鉱物に近いように思う。それらにも価格の安定のための機関はあるわけだけど...

「〈NFTアート〉への共同ステートメント」は納得できなかった

〈NFTアート〉への共同ステートメント というのがあるが、私は署名していない。

〈NFTアート〉:作品に紐付いたNFTが発行されるという共通点だけを除き、簡潔には定義できない多様な活動です。このステートメントに署名する人々により、集合的に定義されます。

この根幹の部分の定義を、署名する人々にゆだねてしまうのは良くない。セキュリティとかについて常に考えるソフトウェアエンジニア的な、悲観的発想なのかもしれないけれど、悪意のある人々が過半数を越えて、意図的に定義を歪めようとしたらどうするつもりなのか。「集合的に定義される」というのは多数決のことなのか。多数決ではないとしたら、なんなのか。

DAO

DAO までいかないで、トップダウンじゃないもの (e.g. ホラクラシー) からみるほうがいいのかもしれない。

レッシグ

法律、規範、市場、アーキテクチャのうち、アーキテクチャに全賭けするのは良くない。

読んだもの/見たもの

The Web3 Fraud

https://www.usenix.org/publications/loginonline/web3-fraud

My first impressions of web3

https://moxie.org/2022/01/07/web3-first-impressions.html

Line Goes Up – The Problem With NFTs

https://www.youtube.com/watch?v=YQ_xWvX1n9g

歴史についておもしろいけど、動画はみかえすのがきつい。

Why you can't just screenshot an NFT

https://www.youtube.com/watch?v=451V-lBLfuo

Exposing Jake Paul’s Scams

https://www.youtube.com/watch?v=CAyE2NIhbDo

取引記録がパブリックになっているのは (銀行の口座間のやりとりを洗うようなことを個人ができるのは) 面白い。

I was wrong, we need crypto

https://world.hey.com/dhh/i-was-wrong-we-need-crypto-587ccb03

カナダのプロテストについて、政府が抗議者や支援者の銀行口座を差し押さえたことに関して、政府に対する不信と、それに依存しない暗号通貨への期待。

As Paul Graham said

Hackers and Painters

Nothing yields meaty problems like starting with the wrong assumptions. Most of AI is an example of this rule; if you assume that knowledge can be represented as a list of predicate logic expressions whose arguments represent abstract concepts, you'll have a lot of papers to write about how to make this work. As Ricky Ricardo used to say, "Lucy, you got a lot of explaining to do."